「アーティストコメント」

一年中、ギターを抱えてこの国をグルグル廻っている僕にとって、地方在住の才能と出会うことは密かな愉しみだったりする。
そんな意味で、金沢に住む杉野清隆は、2006年度最高峰の才能だった。
標高? うーん、微妙に1700メートル(根拠なし)くらいか。
でも、隣の富山県からは、ちゃんと見えたし、あのエリアの海産物が比類なきほど美味いように、彼の歌も独自の世界に満ちていた。
古くさいのに絶妙に新しく、優しさとシニカルさが同居していて、冷たいくせに何故かあたたかい。
彼の歌は現在(いま)を映す鏡のようなものなのだ。少なくとも僕にとっては。
あの水生昆虫のような風貌の彼が同じ時代に生きて、どんな歌を生み出すのか? それを愉しみに待っている。

山口 洋 (HEATWAVE)


過去がかつて今だったように
今はやがて過去になる
白く霞んだ街
君の満月のようなほっぺ
汗ばんだ缶ジュース
はかないものたちを
杉野清隆は拾いあげる
過去になってしまったものたちが
歌われているあいだだけ今になる
ずいぶん落とし物をしてきてしまったな
やわらかい後悔が
胸を内側からかきむしる
できることは今
目の前にある一杯のお茶を
大切に飲むことだ
ここからはじめよう

漫画家: 山川直人


杉野君おめでとさん。
金沢の近江町市場の「メロメロポッチ」で初めて会ったの何年前だっけ?
その出会いがこうして形になって本当によかったです。
いい音に仕上がったね。
おれは相変わらずの旅ガラス、そう「バンドマン」です。
またあの店で一緒にやろう。また一対一の勝負しようぜ。

湯川トーベン


本当の心根から生まれ出た音楽のことを、フォークミュージックというならば、「全ての音楽はフォークミュージックさ(All music is folk music)」とサッチモが言った事を信じられる。
個人を通じて普遍へ、そして普遍的な事柄を通じて個人の心へ。
人の「想い」の双方向性の密度の高さが、良い音楽を誕生させるのだ。
杉野君の音楽は僕の心に異変を起こした。音楽の素晴らしさを再認識させられた。美しくてしおらしい町、金沢は、時間の流れがたおやかで音楽文化全般の浸透度が高い。
彼の歌を聴くと、僕は非常に愉快な気分になって、そしてすこしばかり涙ぐむ。
輝いている音楽は、皆に知らせないといけない。あなたが聞かないのは、まったくもって何かの間違いだ。
これは、僕達の音楽。あなたと僕の音楽。

安武重利(タワーレコード新発田店 店長)


1〜2年くらい前だったか、新宿で杉野くんとイベントで一緒になって、その弾き語りを初めて観たんですが、印象に残ったのがギターのトーンの良さと、リズムの安定した丁寧なフィンガーピッキング。
これが太くて優しい歌声と相性バッチリで、不器用なれどピュアな男の深遠なる世界をのぞき見るようでした。
まさにザッツ・シンガーソングライターな杉野くんのこのアルバム、何か番茶でもすすりながら聴きたくなる、コタツみたいな音楽です。

青山陽一


まだ見ぬ杉野清隆君へ

「金沢在住のシンガーソングライターで、スゴイ子がいるんですよ」と、スタッフの方からお話を聞いたのは、たぶん暑い頃だったと思う。その一言からいったいどんなアーティストなんだろうと、頭の中でいろいろと想像を膨らませていた。そして彼の音源が届いたのは、それからどれくらいたってからだったろうか。届いた音源のジャケットと楽曲タイトルを見て、まずはかわいいという感想を持ったものの、彼のプロフィールはどこにも書かれていない。というわけで早々に音を聴いてみた。まず1曲目を聴いて浮かんできた言葉が《はっぴえんどマニア》だった。しかしながら楽曲を聴き進めていくうちに、高田渡やら西岡たかしやら加川良やらといった名前が頭の中に次々と浮かんできて、6曲全部を聴き終わったときには《1人70年代》というところに落ち着いたのである。
  それは60〜70年代のフォークやニューミュージック、日本語によるロックを単にさかのぼって聴き込んだ新世代とも、その時代を過ごしてきたリアル世代が当時を懐かしんでいる感じとも違う、なんとも不思議なワープ感を持っているのだ。たぶんそれは金沢という歴史に彩られた独特の地域(金沢を飛び出した何人かの友人に話を聞いてみると、いい意味でも悪い意味でも時が止まっ他コンサバティブな地域らしい)の中で育ったことも大きいのかもしれない。そこで彼はいったいどんな風景の中でどんな音楽を聴いていたのか。そしてそれが彼の瞳にはどんな言葉で映っていたのか・・・。どんな思いでメロディを残しはじめ、どんな思いが言葉に閉じ込められているのか・・・。聞いてみたいこと、知りたいことが次々に浮かんでくる。
  その答えはいつかお会いしたときに解き明かされるのかもしれない。がしかし今はジャケット(漫画家の山川直人:画)の中に描かれている「1962」「DOG」といったいくつかの言葉をヒント(だと勝手に思っています)に創造してみることにしよう。それにしても彼が描き歌う日本語は、どうしてこんなにもビートがあり言葉がきれいに響いてくるんだろうか。ああ、だから『メロウ』なのね。

ライター: 河合美佳



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